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東京高等裁判所 平成9年(行コ)152号 判決 1998年1月29日

控訴人

木村厚生

被控訴人

千葉県知事

沼田武

右指定代理人

中後董

外七名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  本件を千葉地方裁判所に差し戻す。

二  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要

一  本件は、控訴人が、東洋ランディック株式会社に対して行われた平成八年三月五日宅地開発許可番号印土第一二号の三七に係る宅地開発許可処分(原判決にいう本件処分)について、原審において、被控訴人を被告として、その取消しを求めていた事案である。

二  当事者の主張

1  控訴人が本件処分の取消しを求める理由は、原判決添付別紙一及び二に記載のとおりであるから、これを引用する。

2  これに対して、被控訴人は、原判決の摘示する「本案前の答弁」(原判決三頁八行目から七頁三行目まで)のとおり主張して、本件訴えの却下を求めるが、要するに、(1)本件処分は、被控訴人が行ったものではなく、千葉県印旛土木事務所長が行ったものであるから、被控訴人には、本件訴えの被告適格がない、(2)本件処分の取消しを求める訴えは、開発審査会の裁決を経た後でなければ提起し得ないところ、控訴人は、開発審査会の裁決を経ないで本件訴えを提起している、(3)本件訴えは、出訴期間を経過した後に提起されたものであることが明らかである、(4)本件処分に係る開発工事は既に完了しているので、控訴人には、本件処分の取消しを求める利益がないので、本件訴えは、いずれにしても不適法であるというのである。

三  原判決及び控訴人の本件控訴の理由

1  原判決は、本件処分は、被控訴人ではなく、千葉県印旛土木事務所長が行ったものであるから、その取消しを求める訴えは、千葉県印旛土木事務所長を被告として提起すべきものであって、被控訴人を被告として本件処分の取消しを求める本件訴えは、不適法であるとして、これを却下した。

2  これに対して、控訴人は、当審において、本件の被告を被控訴人から千葉県印旛土木事務所長に変更することを許可することを前提に、原判決を取り消して本件を原審に差し戻すことを求めている。

第三  当裁判所の判断

一  本件訴えの被告適格

当裁判所も、本件処分の取消しを求める本件訴えは、被控訴人ではなく、千葉県印旛土木事務所長を被告として提起すべきものであったと判断するが、その理由は、原判決の理由説示(原判決七頁七行目から八頁六行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

二 被告の変更の許否

1 控訴人は、当審において、本件の被告を被控訴人から千葉県印旛土木事務所長に変更することを許可したうえ、その変更後の千葉県印旛土木事務所長に対する訴えを原審に移送することを求めるが、行政事件訴訟法一五条が被告の変更を規定しているのは、行政事件訴訟においては、原告が、その被告とすべき者を容易に認識し得ない場合が少なくなく、被告を誤って訴えを提起したため、当該訴えを却下された後、改めて本来の被告に対して訴えを提起した段階では、出訴期間を徒過しているため、当該訴えを却下されるというのでは、本案判断を求める機会が失われてしまうので、そのような事態に至ることを防止しようとする趣旨である。したがって、仮に当初の訴えが被告を誤らないで提起されたものであったとしても、出訴期間を徒過しているため、もともと本案判断を受ける余地がなかった場合にまで、被告の変更を許さなければならない理由はない。

2 そして、右説示したところは、原告が、被告適格を誤っているとしてその訴えを却下した原判決に対する控訴を提起し、控訴審において、被告の変更を許可することを求めている場合においても異なるものではないから、当初の訴えが被告を誤らないで提起されたものであったとしても、出訴期間を徒過している場合には、控訴審において、被告の変更を許可したうえ、その変更後の被告に対する訴えを原審に移送する理由はなく、原判決に対する控訴を棄却すれば足りるものというべきである。

3 これを本件についてみるに、本件記録によれば、本件訴えは、行政事件訴訟法一四条三項の規定する出訴期間を経過した後に提起されたものであることが明らかであって、かつ、その期間を徒過したことについて、控訴人に同項但書所定の正当の理由があったとは認められないから、仮に控訴人が本件訴えをもって千葉県印旛土木事務所長を被告として本件処分の取消しを求めていたとしても、本件訴えは、出訴期間を徒過した不適法な訴えとして却下を免れないものであったというほかはなく、前述したところに従い、被告の変更を許可することなく、本件控訴を棄却すべきものである。

三  よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官清永利亮 裁判官滝澤孝臣 裁判官佐藤陽一)

《参考・決定》

主文

本件申立てを却下する。

理由

一 申立人は、東洋ランディック株式会社に対して行われた平成八年三月五日宅地開発許可番号印土第一二号の三七に係る宅地開発許可処分の取消しを求め、千葉県知事を被告として本件訴えを提起したが、原審において、本件処分の取消しを求めるには、印旛郡土木事務所長を被告とすべきであったとして、本件訴えを却下する旨の判決を受けたので、その控訴審である当審において、本件の被告を千葉県知事から千葉県印旛土木事務所長に変更することを許可すべきであると主張する。

二  しかしながら、本件記録によれば、仮に申立人が本件訴えをもって千葉県印旛土木事務所長を被告として本件処分の取消しを求めていたとしても、本件訴えは、行政事件訴訟法一四条の規定する出訴期間を徒過しているため、不適法な訴えとして却下を免れないものであったと認められるから、このような場合には、当審において、被告の変更を許可する理由はないといわなければならない。

三 よって、本件申立てを却下することとして、主文のとおり決定する。

平成一〇年一月二九日

東京高等裁判所第七民事部

(裁判長裁判官清永利亮 裁判官滝澤孝臣 裁判官佐藤陽一)

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